第86章 俺のチョコレート
夕日が差し込む美術室。
1人2人と部員が帰っていく。
「大野先輩は帰らないんですか?」
窓際でキャンバスとにらめっこしている俺に声をかけてきたのは、1学年下の櫻井翔。
うわっ、どうしよう。
大きくて綺麗な目で俺を見てるじゃん。
ドキドキする…。
「そういう櫻井は帰らないの?」
にやけてしまわないよう、できるだけ落ち着いた声を出してみた。
「あの…聞いてもいいですか?」
「ん?いいよ。何かな」
「その…大野先輩は今日、チョコはもらったんですか?」
「あぁ、バレンタインデーだからって声はかけられたけどね。もらいたい人もいなかったし、断った」
「そう…ですか。あ、僕帰りますね」
櫻井はダダダダダッと足音をさせて美術室を出ていった。
アイツ、どうしたんだ?
んふふふふ。
この歳になって足音たてて走る人、初めて見たかも。