第85章 のぼせ注意報
…あれは、聞き間違いかもしれないし。
気を取り直して櫻井が着れそうなものを探しはじめた俺は、クローゼットの真ん中に置いていた紙袋を取り出した。
まだタグすら取っていないワインレッドのパジャマ。
愛用しているパジャマの着心地がよくて、年末に買い足したもの。
持っているものと同じブルーのを買う予定が、ワインレッドの綺麗さに惹かれたんだ。
「うん。俺よりも櫻井のほうが似合いそうだな」
ブルーとワインレッドの色違いのパジャマ。
“大野くん…カップルみたいだね”
なんて頬を赤らめながら言われたらどうしよう〜っ。
またにやけそうになるのを何とか落ち着かせて、新品の下着とともに浴室へ持っていった。
コンコン…
「失礼しまぁす…」
浴室のドアは曇りガラスになっているから、櫻井のシルエットが見えてしまうかもしれない。
俺は脱衣室に入ると、できるだけ浴室のほうを見ないようにしながらパジャマと下着を置こうとした。
ガチャッ…
ドアを開けた音がしたとともに、モワッと蒸気で視界が白くなっていく。
「あっ」
後ろで櫻井の声が聞こえた。
俺は背中を向けたまま、手に持っていた着替えで顔を隠した。
「ご、ごめんっ。みっ、見てないから。着替え、ここに置いておくから」
そう言って洗面台の空きスペースに着替えを置き、その場を離れようとした。
1秒でも早く、と。
「ま、待って。よかったら…もしよかったら…大野くんも一緒に入らない?」
「えっ…な、なに言って…」
「泊めてくれるお礼に…背中、流させてもらえないかな」
俺の胸はドキドキバクバクして…ソワソワザワザワして…。
お風呂に一緒に入る…ってさ、妄想してたことが現実に…?
いざその状況になってみると、びっくりしてしまって。
嬉しい気持ちはあるけど、本当にいいのかと…自分の胸に問いかけていた。