第82章 Dear Snow
雪は積もるほどは降らずにもうやんでいたけど、俺たちはやっぱり離れがたくて。
「泊まっていけば…」
「うん…そうしようかな」
翔くんはウチに泊まり、朝早くに帰っていった。
シングルベッドに抱き合って眠った俺たち。
ドキドキしたし身体だって疼いたけど…ホッとした気持ちのほうが大きかったのか、お互いわりとすぐに眠ってしまった。
んふふ…寝起きの翔くん、ぽや〜っとしてて可愛かったなぁ。
そして今日は、櫻井くんの家庭教師をする最後の日。
初恋の翔くんと同姓同名であの頃の俺たちと同年代のキミに、初めて会った日のことが甦ってくる。
「大野先生、ありがとうございました」
「こちらこそ。櫻井くん…ありがとね」
小さく頷いた櫻井くんは、Yシャツの胸ポケットに指を入れて何か取り出した。
「大野先生。昨日ね、本当は喫茶店前で渡そうと思ってたんだけど…雪も降ってたし…なんだかね、渡せなくて…」
櫻井くんが小さく丁寧に折ったメモを俺の手にそっと握らせた。
その俺の手を櫻井くんの手が優しく包んでいる。
「本当は今この瞬間も、渡していいのか迷ってはいるけど…」
「…帰ったら、見させてもらってもいいかな」
「はい」
ゆっくりと手を離す櫻井くんは、心なしか少しさみしそうな…それでいて何か吹っ切れたような…そんな表情をしていたんだ。
帰宅してから、俺は櫻井くんから受け取ったメモを開いた。
そこに書かれているメッセージが、俺の胸に染み入る。
「さく、らいく、ん…ごめっ…ん、ありがっとう…」
櫻井くん…キミは素敵な人だよ…。
俺はじわじわと熱くなってくる目頭を押さえた。
叶わない相手への恋文のようだと…俺はそう感じたんだ。
『人を惹きつける魅力があるのに、
心には初恋の人を想っているあなた。
強さと弱さを感じさせるあなたは雪のよう。
そんな儚いあなたを…
大切なあなただからこそ…
僕は応援したくなるのです。
今日1月25日が、
僕の誕生日でもある日が…
あなたと…
僕と同じ名前のあなたの初恋の人にとって…
素敵な日に
なりますように。』
END