第75章 One Step
「ねぇ、智くん。コレ…」
僕は布が掛けられているものの近くに行った。
「んふふ。布さ取って見ていいよ」
「僕が取っていいの?」
「うん、翔に取って欲しい」
「じゃあ…」
僕はゆっくり布をはずしていった。
キャンバスから少しずつ見えてくる光景に懐かしさを感じていく。
さっき夢でも見た、シロツメクサ。
子供の青色の靴とエンジ色の靴。
半ズボンと丸い膝小僧。
園児の水色のスモック。
しっかり握られている手。
二人の男の子。
そのうちの1人の頭には花冠。
「智くん、これって…」
「そう。あの日の俺たち」
そこにはバランスを崩した僕を智くんが支えてくれたあの瞬間が描かれていた。
「コンテストに出した作品なんだ」
「特別賞獲ったって言ってた…テーマは“大切なもの”だったよね」
「うん、そう。俺の気持ちと翔自身」
「うわぁ…なんか…嬉しいな」
惹かれ合ってるような二人。
僕はその絵をじっと眺めた。
「実はさ、もう1つ描いてたんだよね…」
智くんがニヤッとする。
「もう1つ?」
「裏、見て。そっと…だよ」
「そっと…だね」
僕は言われた通り、そぉっと覗いてみた。
「えっ…」
「んふふ」
「こんなこと…したっけ…?」
「やっぱり翔は覚えてなかったかぁ」
智くんがちょっと残念そうに笑った。
それはスケッチブックに描かれた絵。
さっきの絵より二人の顔の距離が近くて、唇と唇が触れてるような触れてないような。
「翔を抱き止めた時にさ。翔の唇が俺のにかすったんだけどな…そうかぁ、覚えてないかぁ…」
智くんが本当に残念そうに言うから…
「智くん」
僕は意を決したんだ。