第12章 step & go
いま…俺は夢見心地でいる。
胸にバレンタインチョコ1箱ぎゅっと握りしめて…まるで恋する乙女、みたいな。
俺にも春が…桜が咲く…予感…かな。
ベッドに横になり、目を閉じて昨夜のことを思い出す…。
「バレンタインチョコいかがですかぁ。」
2月14日…
こんな日にさ、男の俺がさ、何でバレンタインチョコの売り子のバイトをしないといけないの?
“男の子がいると客寄せになりそう”って姉ちゃんがバイト先に提案して、俺に白羽の矢がたったんだ。
そりゃあさ、彼女もいないし、予定もないけど。
「お幾つなんですか?」
「彼女いますか?」
「連絡先交換してください。」
…ってさ。
次から次に…もうさぁ勘弁してほしいよ。
仕事中ですから、って相手にはしないけど。
まぁね、現時点で去年の売り上げを越えてるらしいから、それは素直に嬉しいんだけどね。
「こんばんは。」
またかよ!じゃなくて…聞き覚えのある低音ハスキーボイス…。
「…あっ。櫻井くん…?」
「やっぱり大野くんだったぁ…バイト?」
「見ての通りだよぉ。姉ちゃんに駆り出された。」
「そっかぁ…大変だね。」
「櫻井くんはどうしたの?」
「塾がこの近くでさ。通りがかったら見たことある人いるなぁって。」
「そうなんだぁ。」
「あっ、ごめんね…ジャマしちゃってるよね。わぁ、いっぱいある。」
櫻井くんがチョコを見始めた。
「美味しそうなものばかりだね…大野くんだったらさ、この中でどれが食べたい?」
「うーんとね、この2粒入りのやつかなぁ。俺、あまり量が食べられないから。」
「そっかぁ…あ、行くね。バイト、頑張ってね。」
それじゃ、って片手をあげて去っていった。
キラキラしてて、爽やかだなぁ。