第72章 実りの秋
俺には、櫻井翔という同性の恋人がいる。
その恋人とは同じ会社の同期だ。
付き合いはじめてちょうど1年になる。
「お疲れ様〜」
「お疲れ〜」
「ただいま戻りました」
定時になり仕事を終えた人の中、愛する恋人が外回りから帰ってきた。
「櫻井くん、お疲れ様」
「大野くんもお疲れ様」
ニコッと微笑む彼を見たら、疲れが一瞬で吹っ飛んだ。
隣のデスクに着き、報告書をまとめ始めた翔くん。
「ごめん、30分くらいかかるかも…」
俺にだけ聞こえるように呟いた。
「カフェにいる」
「OK」
“仕事後に会いたい”
翔くんからそう連絡が入ったのは昨夜だ。
改まって何だろう…
「あちっ」
そんなことが気になりながらコーヒーを啜り、翔くんを待った。
「智くん、お待たせ」
「お疲れ様、翔くん」
爽やかなイケメンが店内に入ってきたからか、熱い視線があらゆる方向から向けられる。
店員さんまでポーッてしてるじゃないか。
「あ、そうそう。智くんさ、来週末は何か予定ある?」
まぁ、本人はそんな視線たちは気にしてないようだけど。
「おーい、智くん。聞いてる?」
「えっ、あ…なに?」
「聞いてなかったな…」
ぷぅって頬を膨らませ、ジトーッとした目で俺を見る。
ほら。
今度はそんな可愛い顔をして。
周囲のハートをまた鷲掴みじゃないか。
そんな翔くんハートを掴んだのは俺、大野智だからな。
「あのね、これなんだけど…」
翔くんが差し出したのは、旅館のパンフレットだった。