第56章 ボクたちのカタチ
(Sサイド)
「んんっ…。」
朝。
隣で眠っている智くんの腕が俺の胸に乗っかり、目が覚めた。
普段、智くんからのスキンシップは殆どないから…
それがたとえ無意識なことであっても、何だか嬉しく感じてしまう。
俺は智くんを起こさないようにベッドから出て、パジャマから部屋着に着替えた。
今日は日曜日。
智くんも仕事は休みのはずなんだけど…
何か予定はあるのかな。
…智くんも俺の予定、気にしてくれてたらいいな…なんて。
そんな事、可能性はゼロだってわかってるのに。
智くんは、仕事の取引先の担当者だった。
人当たりはいいし、仕事はできるし。
俺が智くんに惹かれるのに、時間はかからなかった。
猛アタックして、何度か食事やドライブに行って。
智くんの家にも数回だけどお邪魔させてもらった。
だけど…
智くんは仕事とプライベートでは、まるで別人のような人だった。
一緒にいても、智くんから話しかけてくることはないし、俺が話していても返事は言葉ではなくて相槌の方が多いかもしれない。
それでも時折見れる、ふにゃんと笑う顔が嬉しくて。
素っ気なくても、智くんのことが好きな気持ちは変わらなかったんだ。