第53章 忍びの…①
伊賀最強の忍者、無門。
ここ数日、毎日のように無門の元に来ては、弟子入りを申し出る一人の男がいる。
その名は翔(しょう)。
無門よりも少し背が高く、色が白くて大きな目と厚い唇が特徴であり、女性と見間違うほどの美人である。
「何度も言っているが、弟子はとらぬ。」
「お願いします。」
「うっ…。」
翔の上目遣いは、頑なな無門の心さえも動かす破壊力がある。
「まぁ…お主の実力を見てから考えよう。」
うるうるの上目遣いに耐えていた無門も、遂に折れてしまったのだ。
それならばと、無門は翔に塀登りの課題を与えた。
「1歩目で塀を蹴りあげて、上がるのだぞ。」
「やりますっ。頑張りますっ。」
だが…
何度挑んでも、翔は塀登りの1歩目で下に落ちてしまう。
「翔、もっと足をあげて。」
「無、無理です…無門殿ぉ…。」
「何言ってんだ。弟子になりたいんだろ。」
「でもぉ…。」
センスがないのだろうか…。
翔の長い手足と腕の筋肉は全く生かされず、無門は頭を抱えた。
「下から支えるから…とりあえずイメージを焼き付けろ。」
「はい…。」
そして、無門の補助により1歩目で塀を上手く蹴りあげた翔だったが、
「あっ…。」
塀の縁に足が引っかかり滑り落ちてしまった。