第52章 近くて遠くて
「智くん、一緒にかえ…っ。」
いつものように智くんの教室に行くと、クラスメイトと談笑している姿が見えた。
いつからかな…
学校では当たり前の光景なのに、何だか面白くない。
全開になっている教室のドアをコンコンとノックする。
「あっ、翔くん。今、行くね。」
「うん。待ってる。」
俺は笑顔を見せて、ドアに隠すようにして作っていた力いっぱいの握りこぶしを緩めた。
隣を歩く智くんのマイナスイオン効果が、俺の気持ちをスーっと清らかにしてくれるように感じる。
智くんとは高校で知り合った。
意外にも家が近くて、隣の中学にいたらしい。
クラスは同じになったことがなくて、こうして一緒に帰るようになったのも、部活を引退してからだからまだ2ヶ月くらいで。
「翔くんさ、明日は何か予定ある?」
「ううん、ないけど。どうして?」
「数学でわからないとこがあるから教えて。」
「それだったら、今でもいいじゃん。」
「それはそうなんだけど…。」
「何?どうかしたの?」
「そういう訳じゃないけど…。」
「ん?」
「今日、教科書持ってきてないから書き込めない。」
「あはは。そうか、そうなんだ。わかった。明日行くよ。」
「んふふ。ありがと。」
ふにゃんって可愛らしく笑うんだ。
…ずっと見ていたいよ。
友達としてなら、いつまでも傍にいられるのかな。