第44章 溢れる
大学時代の先輩に勧められて、塾の講師になってから3年が過ぎた。
はじめは戸惑いもあったけど、予想外に生徒さんや親御さんからは良い評価を得ているようで、やりがいを感じるようにもなった。
だけど…本当の俺は信頼してもらえるような人間ではないのかもしれない。
なぜなら、生徒に恋を…一番後ろの席にいる一人の生徒に心を奪われているのだから…。
その生徒…櫻井がここに来たのはちょうど1年前だった。
一番後ろの席からこちらを見る櫻井。
色が白く、目が大きくて、ぽてっと厚く赤い唇…綺麗な子だなって一瞬にして惹かれたんだ。
生徒シートを確認して…その子が“櫻井翔”という名前で男子だったことにも正直驚いた。
こんなに綺麗な男子は今まで生きてきた中で見たことがない…。
講義中は、櫻井に視線が釘付けにならないよう、自分を抑えるのに必死だった。
「大野センセ…。」
俺よりも低く掠れ気味の櫻井の声も好きだ。
櫻井は勉強熱心なのだろう。
毎日のように質問をしてくるキミに、俺がどれだけドキドキしているか…。
説明する俺をチラッと見ては相づちをうって微笑む。
キラキラ輝くキミの、ほんのり桜色に染まる頬。
その柔らかそうな頬に…唇に…身体に…触れたくてたまらなくなるんだ。