第35章 恋日記
「あっ。」
もうすぐ家に着くところで、目の前を猫が横切った。
避けようとバランスを崩した僕は、次にくるであろう痛みを覚悟した。
だけど、痛く…ない。
それどころが、倒れてもいない。
右腕を掴まれてる感触がある。
あっ…
「翔くん…?。」
僕の腕を掴んでいたのは、お隣さんの翔くんだった。
「ホント、智くんは危なっかしいなぁ。」
「ごめんね。」
翔くんは中3の僕の4つ下の小学5年生。
よく小3くらいに間違われるらしく、小柄なのを気にしている。
でも、身体は鍛えていて力はあるんだ。
「俺がいなかったら、転んでただろ。」
「うん…ごめんね。」
翔くんは持っていた牛乳をストローでチューッと飲んだ。
そして、はぁ…とひと息ついた。
「そういう時はな“ごめん”じゃなくて“ありがとう”。なっ?」
「うん、そうだよね。ありがとう。」
翔くんはニコッと笑い、さっき掴んだ僕の右腕を擦った。
いつもは小柄なのをカバーしてか、大人っぽく振る舞う翔くん。
そんな雰囲気の翔くんの表情が、今はすごく柔らかくて…ドキッとする。
大きな目にプルっとした厚い唇、白い肌。
パーツは女の子みたいに可愛いのに、全体的に見るとカッコいい。
端正な顔立ちの翔くんは僕が出会った中で、間違いなくNo.1のイケメンだ。
「あっ、やべっ。塾行かなきゃ。じゃあな、智くん。」
「あ、ありがとね。翔くん。」
駅のほうに向かって歩き出した翔くんが、振り向いてこう言った。
「ケガ…しなくてよかったな。」
走り去る翔くん。
僕より4つ下で
僕の肩にも満たないキミに
キュン…とした。