第33章 キミを見つめて
翌日、その人がスケッチブックを持ってやってきた。
背が少し伸びて、顔つきもぐんと大人っぽくなっている。
カッコいい…。
もう“男の子”ではなくて“男性”って感じ。
素敵に成長してることにドキドキして、顔がポ~って火照ってきた。
僕の姿は人間さんには…その人には見えないのに、思わず桜の中に隠れちゃったよ…。
バカだな、僕は。
桜を描くその人の姿を、花びらの間からチラチラ眺めた。
真剣な眼差しに見惚れてしまうよ。
僕の桜、綺麗に咲いてるでしょ。
雨の日も風が強い日も桜が咲いていない期間も、お世話を頑張って良かったなって思う。
桜だって嬉しいよね。
僕はウキウキが止まらなかった。
バチッ。
んっ?今…目があった?
まさかね、そんなはずはない。
たまたま僕の近くの桜を描いているのかもしれない。
僕は一旦反らしてしまった視線を、もう一度向けてみた。
バチッ。
やっぱり…目があった感じがする。
まさかね…本当に?
今度はその人に手を振ってみた。
嘘…でしょ。
その人が手を振り返したんだ。
飛行機や鳥さんがいるのかなって周りを見渡したけど、何もない。
やっぱり僕に…?
どうしても気になってしまった。
僕は羽をパタパタさせて、その人の近くに飛んで行った。
目の前に来た僕にびっくりする様子もなく、優しい顔でニコニコしている。
「もしかして…見えるの?」
思わず聞いてしまった。
その人は「うん。」と頷いて、ふにゃんと柔らかく笑った。