第31章 前を向いて
灯台に登ったのは初めてだ。
「あ~、気持ちがいいね。」
「んふふ。翔くんと登れたからなぁ。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。」
「大学が違くなるからさ、翔くんが遠い存在になる気がしてたんだ。」
「俺たちは変わらないから。」
「うん。翔くんのこと、いつも想ってるから。」
「あはは。うん。ありがとう。俺もだよ。」
「うん。翔くん、色々相談に乗ってね。」
「うん。いいよ。」
「お互い頑張ろうね。」
「智くんと次に会えるの、楽しみにしてるから。」
「もっといい男になっててやるよ。」
「うん。期待してる。」
ふふって顔を見合わせて笑いあった。
これからは今までみたいにいつも
一緒にいられるわけではないけど、
気持ちは翔くんとともに。
それだけで心が暖かくなるんだ。
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…
電車の窓からは、夕陽に照らされてオレンジ色に波打つ海が見える。
その光景は切なくも、今日1日頑張ったことへの癒しと、明日に向かってのエールを送ってくれているように思えた。
「ねぇ、翔くん。」
「ん?なぁに?」
「海藻ラーメンさ、俺以外の人と…。」
「食べない、食べない。智くんとだけ。」
「よかった…。俺も翔くんとだけって思ってた。」
環境が変わっても、海藻ラーメンは…
これだけは、翔くんとの楽しみにしよう。
『好きな人と登ったら、その恋はうまくいく』
お互いが想いあっていること。
そして…案外、些細なことの
積み重ねなのかもしれない。
END