第28章 55㎝の空間
暫く沈黙の時間が流れる。
ただ、胸の鼓動だけは感じられた。
あっ…
ピチャピチャと足音が発するようになってきた。
「雨足、少し強くなってきたね。」
「駅まであと半分ないから、そんなには濡れなくてすみそうだけどね。」
たしかに櫻井くんが言うように、まだ制服は濡れてはいな…んっ?
気づかなかったけど、傘…俺のほうに寄せてくれてる…。
ふと櫻井くんのほうを見ると、櫻井くんの右肩が濡れていた。
「櫻井くんが濡れちゃってる。」
「えっ?あぁ、ほんとだ。」
「気づかなかったの?」
「あぁ、まぁそんなところかな。」
「もうちょっと櫻井くんのほうに傘を寄せていいから。」
そう言いながら俺は傘の端を持って、櫻井くんのほうに傾けてあげた。