第21章 君がいいんだ
金曜日…
「もうヤダッ。寒~い。」
上半身は着込めるけど、下半身が…スカートとストッキングはさすがに冷え冷えするなぁ。
パンプスじゃなくてブーツにすれば良かった…。
おしゃれするって大変なんだな。
自己紹介はどうしようかな。
“サトコでぇ~す!”…ギャル風がいいのか?
“サトコですけど、何か?”…できる女風がいいのか?
“あのっ、サトコ…です…。”…恥らったほうがいいのか?
もう、なるようになれっ!
「あの…。」
後ろから躊躇いがちに声がかかった。
この声は翔くんだ。
昨夜、彼女役の子の名前と容姿を翔くんに伝えておいたんだ。
ふふっ。ちょっとからかっちゃおうかな…。
「ナンパですか?」
振り向きながら言ってみた。
「いやいや、違います!違います!」
あははっ。慌ててる、慌ててる。
可愛いんだよなぁ、翔くんは。
「ごめんなさいね。よく声をかけられるので、つい…。」
「そうですよね、あなたほど可愛い…って、あ、あれっ?」
目が合った翔くんは固まってる。
「わかった?」
「うん…なん、で…?」
「翔くんのこと、一番よく知ってるの俺だから。他の子になんて任せられないよ。」
それはもちろん本音。
だけど…偽りでも女の子が翔くんの隣にいるのは、俺自身が嫌だったんだ。
「ありがとう。智くん。」
「今は“サ・ト・コ”だからね、翔くん。」
「うん、わかった。…サトコちゃん。」
翔くんのためなら、俺は何だってできるんだ。