第20章 kagero
「先に現れたのは翔くんだよ。」
「えっ…?」
目の前にいるその人は、そう言ってふにゃんと笑った。
そうだった。
あの日、あなたがいる保健室に俺が行かなかったら…。
あなたを初めて見た時、儚げで触れてはいけないもののように感じた。
モヤモヤと揺らめく陽炎の先にいたあなた。
近くなれば近くなるほど、俺の中の赤い炎と目の前にある青い陽炎に苦しくなっていった。
だったら傍にいられるだけでいい。
でも
青い陽炎が実体を成したのなら
それはもう…
「智くん。」
「ふふっ。なぁに、翔くん。」
赤いイヤホンをした耳からは
あの曲が聴こえる。
もう陽炎ではない智くんと
燃えるような恋をしてもいいと思う。
キーンコーン…カーンコーン…
触れていただけの指先をキュッと握りあった。
END