第104章 シュワシュワ
「んふふ」
「…笑わなくても…」
「いや、ごめん。ショウなら大丈夫だから。行こ?」
「でも…」
「ほら。ね?」
「はい」
背中に手を添えながら促すと、櫻井は嬉しそうにはにかんだ。
駅まで5分。
いつもなら近くて有難い距離なのに、今はその距離が延びてほしいと願っている。
まぁ、そんなこと叶うはずもなくて。
街灯で照らされている道のりを、一歩一歩かみしめながら歩いた。
愛しい人が隣にいるってだけで胸がいっぱいで。
顔を見合わせては微笑みあったけれど、会話らしい会話はほとんどしていなかった。
券売機の明かりが見えてきて。
あぁ、もう着いちゃったのかと溜め息がでた。
そういえば。
もうお互いの気持ちは十分伝わってはいるけれど…
まだちゃんと言ってはいなかった気がする。
「先輩、炭酸は飲めますか?」
思いに耽っていると、不意に櫻井から声がかかった。
「あ、うん、飲めるけど」
「ちょっと買ってきますね」
櫻井が券売機の横にある自動販売機に向かうのを、俺はじっと見ていた。