第9章 拷問 ~前編~
翌日、博史くんが小学校から帰る時間を見計らって、セバスチャンに攫わせた。連れ去り先は、いつかの廃ビルだ。
ただ、子供は五月蝿いから、猿轡(さるぐつわ)は外さない。あの、きゃんきゃん言う感じが、どうも苦手。
今だって、恐怖からか、私とセバスチャンの姿を見るたびに、何かむぐむぐと言っては、泣いている。ああもう。五月蝿いったらありゃしない。
「セバスチャン、矢田夏雄に電話してくれる? 息子の博史くんは預かったけれど、数日以内に殺しますって。一応、写真も添付してくれたら嬉しいな。あと、念のため、警察にバラしたら、それが発覚した時点で息子を殺します、って。」
「御意。」
セバスチャンは、すぐに矢田夏雄に電話をかけて、その旨を伝えてくれた。
「一応、悪戯じゃないってアピールするためにも、写真でも撮影しましょうか。」
私は、鞄からナイフを取り出し、泣きわめく子供に宛がった。腕、足、頬と、目立つように傷を付けてみて、それを撮影・送信してもらった。
さすがにこれは効いたようで、すぐさま、茨木翔の端末に折り返しの連絡があった。ひどく狼狽えているようで、必死に平静を装おうとしている、そんな雰囲気。「何だってします。だから、息子を助けてください。金ならいくらでも用意できます」なんて言われても、私は別に、金銭目的でこんなことをやっているわけじゃないし。
「もう、面倒だからさ。この子ども餌にして、矢田夏雄を引っ張り出そうよ。というワケで、セバスチャン、この餓鬼殺して。誰か判別できなくなると意味無いから、顔だけはあんまり手出ししないで。あと、絞殺とか、形相が変わる殺し方もやめてね。あと、悪魔は魂を食べるんでしょう? その餓鬼の魂も、お任せするね。」
「御意。」
セバスチャンの口元が、弧を描くように吊り上がった。
「それで撮影終わったら、今夜中に城本を攫ってきましょう!」
セバスチャンの紅茶色の瞳は、怪しく煌めいていた。