第8章 不可逆
「ねぇ、セバスチャン。ゲームをしましょう。」
言いながら、私はボトルの蓋を開けた。そして、中に入っていた液体を、上から満遍(まんべん)なく虫かごにかけた。
「今から、ここに火を点(つ)けます。3匹の蝶々の内、何匹が生き残るでしょう? ……まぁ、簡単な賭け事、遊びと思って、ね? 別に、当たっても、当たらなくても、何もないから。」
そう。これはただの遊び。だから、藁製の虫かごなんて、使い捨てで充分だった。
「そうですか。では……、1匹ぐらいは、生き残ってくれるでしょうか?」
セバスチャンは、どうやら私の遊びに付き合ってくれるらしい。
「私は、全滅に賭けるね。」
折角だ。私も本気で予想する。
「3・2・1……。」
私は言いながら、灯油のたっぷり掛かった虫かごに、火を点けた紙屑を投げた。火はあっという間に虫かごに燃え移り、激しく燃え盛った。当然と言えば、当然だ。
炎はしばらく燃え続けた後、他に燃えるものがなくなったために、自然に鎮まった。まぁ、屋上の床が不燃性の素材だったからか。
私は、ライトを片手に、すっかり灰になった元・虫かごに近づいた。
蝶々は、当然の如く焼死したのだろう。灰の中のどこにだって、その名残すら見つけられなかった。