第1章 契約 ~前編~
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翌日。もう仕事なんてやろうという気すら、全く起きない私になっていたけれど、とりあえず、職場に行く。職場についた瞬間、ものすごい吐き気と頭痛が私を襲ってきたけれど、トイレに行ってやり過ごした。コレ、何かの病気なのだろうか……。それでも、何とかして、頑張らないと……。私はその一心で、鈍くなっている頭を動かしながら、与えてもらっている仕事をお昼休みまでに1つ、こなした。
「できた……。」
少しに達成感とともに、ぐっと伸びをする。そう言えば、昨日の夜から、何も食べていない。けれど、空腹感はそれほど感じない。
実は、少しは空腹感を感じているのだが、それ以上に吐き気がする。だから、結果として全く食欲が無いという状態。おまけに、空調がそれなりには整っているはずなのに、指先が冷たくて、感覚が鈍っているようだ。さっきは、書類を纏めるときに紙で指を切ったが、痛みはあまり感じなかった。正直、空腹よりもそちらのほうが気がかりだった。そんなことをぼんやりとした頭で考えていると、ふいに声を掛けられた。
「天野さん……、ちょっといい?」
「……。」
昨日の上司だった。正直、嫌な予感しかしなかった。
ふらつく体で、何とか部屋に入り、私に手渡されたものは、辞表のフォーマットが印刷された用紙だった。その場で崩れて「辞めます」と言いそうになるのを、なんとか堪えることしか、私にはできなかった。
もう、限界――――――。そう思った私は、力の入らない手で、何とか携帯電話を操作して、親に電話を掛けた。幾らかのコールがあってから、親が電話に出てくれた。もう、藁をもつかむ心地だ。正直に、もう辛い、と口にした私に返ってきた言葉は、「もう大人なのだから、自分でなんとかしなさい」といった旨のものだった。