第6章 凌辱 ~前編~
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靴を履いたまま、室内に侵入する。見た目よりも部屋数がある部屋だった。寝室とリビングが別になっているのだろうか。ベッドのある部屋に明かりはついておらず、半開きになっているドアから、奥へ光が漏れているだけで、人がいる気配は感じられなかった。歩みを進め、奥のリビングへ行く。リビングの前には扉があり、扉の窓から光が溢れている。どう考えても、金本マオはこの扉の奥にいる
私は、迷わずに扉を開けた。独り暮らしの女性が住むにしては、やや広い印象。リビングもそれなりに広く、目に飛び込んできたキッチンカウンターも、清潔な印象だった。それにしても、金本マオの姿が見えない。私は、キョロキョロと周囲を見渡す。
「……?」
微かに聞こえる、何かの音楽。どこから聞こえてくるのだろう?
「あ、あぁ……。」
なるほど、と私は合点がいった。
私の眼の前には、ガラス張りの小さな防音室があった。そして。
「……、いた……。」
金本マオは、その防音室の中で、壁に向かってオルガンを弾いている。私は音楽に詳しい訳じゃないからよく分からないけれど、高価そうなオルガンだった。ここからではよく聞こえないが、金本マオの指は、白黒の鍵盤の上を軽やかに飛び回っていた。きっと、演奏が上手なのだろう。集中すれば、防音室の外からでも、その旋律を僅かながら聞き取ることができる。跳ねるようなメロディと、彼女の指。何の楽曲かなんて全く分からないけれど、美しいものだと思った。金本マオ自身、モデルのように美しいわけではないが、どちらかと言えば外見は整っている方(ほう)である。ガラスケースの外から客観的にこの様子を見て、何かの絵ですと言われれば、そのようにも見えてくるかもしれない。でも私は今から、この風景を血で染めるのだ。