第6章 凌辱 ~前編~
「着きましたよ、お嬢様。」
セバスチャンにそう告げられて顔を上げると、そこには小洒落たマンションがあった。辺りは暗くなっていたが、マンションの照明もあり、その外観がしっかりと見えた。エントランスからは、温かみのあるオレンジ色の光が漏れていて、オートロックの為の機械が、その光に照らされて……って、待った。
「……どうやって入ったらいいの……。」
私は、大馬鹿だ。今時、オートロックなんて常識なのに、なんで何の対策も無しに来てしまったのか……!流石に、ナイフでオートロックはこじ開けられない。セバスチャンに頼めば、機械やドアの1つや2つぐらい、破壊してもらえるかもしれないけど、そんなことをしたら、まず間違いなく警察が来る。それでは目立ち過ぎる。
セバスチャンは、私の様子がおかしいことに気が付いて、クスクスと笑っている。っていうか、セバスチャン……。
「最初から、気付いてたなら、言ってよ……。」
「ご用意しておきましたよ、合鍵。」
セバスチャンは、嫌味なほどにニッコリとした笑顔で、私へ鍵を渡してきた。恐らく、セバスチャンが、昼の内にこのマンションを調べて、金本マオの部屋の合鍵を作っておいてくれたのだろう。その準備の良さに脱帽する。……いや、今回はセバスチャンの方が普通で、私が何の準備もせずに挑んだだけの、ただのバカだったんだけど。
セバスチャンの用意してくれた鍵で、まずはエントランスへ入る。そう言えば、防犯カメラとかは大丈夫なんだろうか。普通、こういったマンションのエントランス付近には、出入りする人間を撮影するための防犯カメラがついていて、映像として記録・保存される。
「ねぇ、カメラとか……。」
「1時間前から、既に死んでいますよ。早くとも明日の朝にならないと、復旧しません。」
何という手際の良さだろう。一体、何をどうやったかなんて全く分からないけれど、改めてセバスチャンの優秀さに脱帽するしかなかった。