第6章 凌辱 ~前編~
「お嬢様、荷物をお持ちしましょう。」
「ありがとう。悪いね、セバスチャン。」
なんかもう、本当に私の執事みたい。いや、執事なんて、ドラマとか映画とか、そういう非現実の中でしか、見たことが無い私なんだけど。
「今日は随分とまた、気合が入ったご様子で。」
セバスチャンは、静かに、それでいて私の耳の奥まで響くような美声で、私に話し掛けてきた。それにしても、容姿端麗な上に、声まで艶があって美しいとなると、もはや完璧すぎる気がする。
「うん。まぁ、ね。“契約”したのは私なのに、あの時私はほとんど何もできなかったし。セバスチャンだけに任せておくのって、良くないよね。それに……。」
「それに?」
私は、確かにあの時、“想像”して、“興奮”したのだ。
殺す相手を、少しずついたぶって、もう楽しめなくなってから、殺すさまを思い描いて。
意識のある女を、指の先から、小さな刃物で傷付けて、あとは大きな刃物で致命傷を与えていく。“女”パーツを削いでいく。
今でも、そんな恐ろしい想像をするだけで、背筋が凍りそうだ。しかし、そんな自分ごと嗤うかのように、その行為を実行に移したいと願ってやまない私もいるのだ。私は、この二律背反を、ひとつしかない私に宿している。それは何とも不自然なことだと思う。この“興奮”は、極めて不道徳的なのだろう。それでも私は、あいつ等を許さない。私が不道徳的になることよりも、あいつ等を放置しておくことの方が、私には許せない。どうせ、この世に神も仏もいない。いるのは、私を嗤った畜生共と、知りながらも見ようともしなかったゴミ共と、あとは本当に何の関係も無い見ず知らずの他人たちだけだ。最後の他人たちはさておき、少なくとも私をあんな目に遭わせた畜生共を、残らずこの手で殺してやる。どのみち、私はもう、2人ほど殺している。あれは、セバスチャンが私の代わりに実行したというだけで、私が殺したのも同然だ。どうせ、地獄に堕ちるか煉獄とやらに繋がれるのならば、今という一瞬を、私が望むままに生きてやる。