第5章 鳥籠
「ですから、その契約書をお嬢様が持つ限り、私はお嬢様の忠実な下僕であり……。」
セバスチャンは、その端正な顔を、私へと近づけてきた。匂い立つほどの色香に、脳の奥がやられるような、そんな感じ。
「お嬢様は、私から逃げられませんよ。」
「――――――っ……!!」
刹那、理解した。私は、セバスチャンに、囚われているのだ。その真紅の瞳に、契約書に、―――――その妖艶さに。
「さて、お待たせして申し訳ありませんでした。それでは、“鎮めて”差し上げましょうね……?」
「……!」
口調こそ、疑問形を取っているが、それだけだ。多分、いや、全然、私に選択肢なんてものは存在しないのだ。
―――――『下僕』? 『執事』? そんなもの、あくまで表面上の話だ。私は、籠の中の鳥、自由なき囚人だ。
「――――、ぁ、うん……。」
私は、知らず首を縦に振っていた。