第5章 鳥籠
「……失礼します、お嬢様。」
「……っ……!」
ゆっくりと、持ち上げられるキャミソールの裾。私は、その光景を、ただ見ているしかできなかった。
セバスチャンの右手は、私のキャミソールを、乳首が見えるか見えないかのギリギリのところまでたくし上げた。
私の心臓は、ただひたすらに、鼓動を速めていた。
「ご覧になりますか?お嬢様の契約書を。」
「……、っ、ぅ、ん。」
正直、セバスチャンが何を言っているのかなんて、全く分からなかったけれど、本当は私が知っておくべきことがあった、ということなのだろう。
「それでは、可視化します。」
セバスチャンは、そう言って、私の乳房と乳房のあいだに、その左手を重ねた。その瞬間、セバスチャンの左手の下、私の胸に、電気のようなものが走ったような気がして、軽い痛みを覚えた。
「……っく、ぁ……!」
幸い、痛みはすぐに治まり、私は小さく溜め息を吐いた。
「は、ぁ……?」
セバスチャンは、右手をそのままに、左手だけを私の胸から離した。
「……!? な、何、これ…………!」
セバスチャンの左手が離れたあとの私の胸には―――――、正確には、私の心臓の上あたりには、セバスチャンの左手と同じ紋様があった。色だって全く同じ。これでもかというほどの、漆黒だった。
「私との契約の証。契約書、と呼ばれるものです。」
「契約書……?」
知っている言葉ではあるものの、私の知っている意味とは、きっと全然違うような気がする。
「はい。契約の時にも申し上げましたが、お嬢様は、私の契約者です。私が、お嬢様の望みを叶えることと引き換えに、その魂を貰い受ける、とするものです。お嬢様の体にあるこの印こそ、お嬢様が私と契約を交わしていることの証。その契約書をお持ちいただいていることこそが、私がこうしてお嬢様にお仕えしていることの根拠なのです。」
「ふ、ふぅん……。」
何となく、頭ではその意味をなぞることができるが、理解とまでは到底行きつかない。