第5章 鳥籠
「あ、ありがとう……?」
どう言っていいか分からなかったけれど、とりあえずお礼は言っておいた。すると、セバスチャンは、ほんの少しだけ驚いたような目をして、またふっと笑った。
「キリエお嬢様、服はご自身で脱がれますか?それとも、僭越ながら私が?」
「………………え?」
一瞬、セバスチャンが何を言っているのかが、理解できなかった。自分の身体を見る。風呂上がりだから、上下セットのパジャマ。ちなみに、下着はキャミソールとショーツ、それだけ。
――――――紅かった。
セバスチャンの瞳は、いつもの紅茶色じゃなかった。深紅色――――――人間の瞳の色としては、あまりにも不自然な色だった。
「まだ、契約書についてのご説明も申し上げていませんでしたね。」
そう言ってセバスチャンは、いつもはめている白い手袋を、ゆっくりと取り払った。大きくて白い右が、私の眼前に晒される。
「―――――っ」
その指先は、黒かった。正確には、その爪が。そして、その次には、左手から白い手袋が取り払われた。
「―――、な、何、それ……。」
セバスチャンの左手には、星マークを逆さにしたような、黒い刺青のような、模様があった。セバスチャンが人間の姿でいる時には、いつも手袋をしていた。それが何故か、などとは考えたこともなかった。見慣れない筈の紋様。でも、どこかで見たことがあるような、そんな気もする。気のせいかもしれないけれど。
「キリエお嬢様にも、実は既に同じものをお持ちいただいております。ご覧になりますか?」
「……。」
私が、同じものを持っている?既に?意味が分からない。理解が追い付かない。私は、どう返事をしたらいいのかも分からなかったので、とりあえず無言のまま、ぎこちなく首を縦に振った。
「それでは……。」
セバスチャンの手が、私に伸びてきた。そして、そのままパジャマのボタンを手際よく外していく。ベッドの隅へと置かれる私の上着。私は、キャミソール1枚という、何とも心許無い姿になった。