第4章 殺人
「只今戻りました。」
ほんの今の今までスクリーンの向こうにいたはずのセバスチャンが、今度は私の傍にいる。
「あ、うん……。」
私は、床に座り込んだままという、何とも情けない体勢でいる。
「終わりましたよ。茨木翔と傍らにいた女を、殺しました。」
抑揚もなく、淡々と話すセバスチャン。しかし、セバスチャンの服には、幾らかの血がついている。所謂返り血だ。ズボンは黒っぽいからよく分からないが、ジャケットには、べったりと血がついていた。
「嗚呼――――、上着に血が付いていますね。汚らわしい。」
セバスチャンは、そう言いながら上着を脱ぐと、そのままそのジャケットを燃やした。マッチもライターもその辺りに無かったところを見ると、悪魔としての力か、そんなところなのだろう。
「どうされます?死体を直接確認されますか?」
「え?あ……。」
「まぁ、もう誰が誰なのかも分からないとは思いますが。」
セバスチャンは、先程から浮かべている不敵な笑みを深めた。目が眩むほどに美しい顔立ち。それなのに、その表情には、毒が滲んでいる。美しい薔薇には棘がある、なんていうことわざがあるが、そんな生易しいものではない。私はそう感じている。それでも、その美しさは、これ以上ないほどに人間を魅了するものなのだろう。現に私も、こんな状況に置かれているにもかかわらず、セバスチャンを恐ろしくも魅力的に感じているのだから。
「……、キリエお嬢様、どうされました?」
セバスチャンが、私に話し掛けてくれている。
「ありがとう、セバスチャン、帰ろう。」
「承知いたしました。」