第4章 殺人
数十分ほど経ったのだろうか。分からないが、その辺りから、茨木翔の態度が変わり始めた。
『カワイイね、ユウカ……。』
茨木翔の声が、次第に妖しさを帯びていく。その声に、その声音に、その湿度に、その獣性。頭の片隅、封じられていた感情の箱に、汚い爪が立てられるような感覚。
『い、いやぁっ、翔くぅん……。』
女のくぐもった声が、私の神経を逆撫でする。
『ユウカは、淫乱メス豚だね……!』
茨木翔は、そう言いながら、棒状の異物を女の肛門に突き刺した。
『ひゃ、あんっ……!っ……。翔くん……!』
女がそう言った瞬間、茨木翔は女の尻をピシャリと叩いた。
『気持ちいいです、もっとください、もういっこの穴にも挿れてください、だろう?』
『あ、あ、あぁ……。』
画面越しだからか、よく見えないが、女の目はきっと虚ろだ。
『お前みたいな、キズモノの女を、可愛がってやってんだ。ホラ、早く言えよ。』
『き、キモチ、イイ……、です……。も、もういっこ、の……。もう、い、っこ、の……。』
女の声は、苦痛のあまりか、途切れ途切れになっている。私は、頭の奥底から這い出てくるような不快感に、我慢の限界を感じていた。
『早く言えよ、メス豚ァ!』
茨木翔は、口の端を歪めながら、苦痛に喘いでいる女を蹴り飛ばした。
女はベッドから落下したが、鈍い呻き声をあげて、痛みに耐えている。
『ハハハハハ!カワイイな、ユウカ!ホラホラ、俺のモンが、欲しいんだろ?だったら、おねだりしろって!』
画面の向こうで、茨木翔は笑い続けている。私はその声に、脳内を引っ掻かれ続けている。
不快感が止まらない。嫌悪感が溢れだす。
同じじゃないか―――――あの女は、かつての私と。見るに堪えないとは、このことだ。
それに、あの男だって―――――。あぁ、もう、駄目だ。殺したい。いや、殺す。殺すしかない。赦さない。赦せない。赦したくない。
かつての私も、あの日々も、あの男も。
感情の増幅が、止まらない。――――――止める術なんて、無い。