第4章 殺人
「今から向かうのは、Aホテルです。どうやら、普通の宿泊施設ではなく、恋人同士がそういった行為に使用する施設としてのホテルのようです。茨木翔と同伴の女性が滞在しているのが、そのホテルの306号室。エレベーターを出て、右手奥の部屋です。廊下の行き詰まりの部屋でしたので、それほど目立たない場所に位置していました。」
淡々と、そのホテルの情報を話すセバスチャンは、いつかテレビで見た、優秀な執事のようだった。
セバスチャンの話を聞いているうちに、そのホテルに着いてしまった。派手なネオンに包まれたそれは、さながら遊園地のようですらあった。オトナのテーマパーク、とするならば、この表現も合っているのかもしれない。
「隣の部屋が空いています。我々も、そこに入りましょう。」
セバスチャンは、自動受付機を操作して手早く受付を済ませ、305号室にチェックインした。因みに、セバスチャンが使用していたのは、明らかな偽名だった。というか、『悪魔』なのに、現代社会に適応し過ぎではなかろうか。少なくとも、私よりは何をするにしても圧倒的に手馴れている。
廊下に人がいないことを見計らって、305号室へ入室する。
「まずは、相手の偵察が基本ですね。」
そう言って、セバスチャンは、部屋の中にあった小型のビデオカメラとケーブルを取り出し、接続を始めた。一体、何を始めるつもりなのか。
「今から私が、このカメラを306号室に取り付けに行きます。その映像は、ここ305号室のテレビに映るように設定します。これで、お嬢様は306号室の様子を、常にモニタリングできるということになります。こういったことは、タイミングが重要ですからね。勿論、私もお嬢様と一緒にモニタリングをさせていただき、お嬢様の指示に従って、306号室へ突入致します。それでいかがでしょう?」
あまりにもテキパキとしたセバスチャンの様子に、私はどうしていいのやら分からなかったけれど、セバスチャンはきっと、殺人に慣れている。それも、ありとあらゆる殺人に、慣れているのではないかと、なぜかそう直感した。根拠は分からないが、確信した。セバスチャンは、部屋に備え付けてあったテレビの電源を入れた。スクリーンには、「入力信号」という文字と、単色の画面だけが映っている。