第4章 殺人
もちろん、私は今緊張している。奴等を地獄の底に送ってやることは決めていたけれど、人を殺すことなんて、初めてのことだ。それどころか、私は乱暴なことも、そんなにやったことがない。ドラマや漫画などの創作の世界でなら、まぁそういうシーンだって見たことがあるし、ゲームで敵を倒す、みたいなことならば経験がある。でも、現実に生きている人間に、大きな危害を加えたことなんて、無いのだ。まぁ、普通の女性は、殺人の経験なんてない。だから、どんな準備が必要で、どのようにすれば効率的に人が殺せるのかなんて、全く分からない。私が持っている知識なんてせいぜい、心臓か首を狙えば致命傷を与えられますよ、ぐらいの貧相なものだ。まぁ仮に、首尾よく殺人を完遂させられたとしても、その死体だってどうやって処理していいかなんて、それこそ全く知らない。この辺りのことになれば、想像すらも及ばない世界だ。これで、今から殺人に挑もうというのだから、冷静に考えれば笑える。因みに、私が今日持ってきた凶器は、大きめの包丁、ひとつ。一応、普通の店で売っている範囲では最高級の品物で、切れ味は最高らしい。あとは、ビニール袋とか、ビニールシートとか、手袋とか。昔、何かのテレビドラマで、犯人が持っていたものを思い出して、用意した。それらが、私が抱えているちょっとしたブランドバッグの中に入っている。セバスチャンは、それらを用意して鞄に詰めている私を見て、苦笑を漏らしながら、そんなものは必要ありませんよ、と言っていた。やはり、悪魔から見ても、随分と私は滑稽だったらしい。
セバスチャンは、私の落ち着かない態度を見て、クスリと笑ったあと、これから向かうホテルについて教えてくれた。