第3章 快復
「ねぇ、それじゃあ、さ……。別に、そんなに面倒くさい『契約』なんてしなくても、適当に「人間」を襲っていれば、大丈夫じゃないの……?」
もしや、これは地雷だろうか。そう思いながらも、尋ねずにはいられなかった。
「……。成る程。ご尤もな指摘です。」
セバスチャンは、何かを考えているような雰囲気を出した後、言葉を繋いだ。
「確かにそうですね。ですが、そうはいかない事情もあるのです。」
「事情?」
『悪魔』にも、何やら事情があるのだろうか。
「……、少なくとも、今からざっと数百年前までは、人々は『悪魔』のみならず、神や精霊、我々『悪魔』といった存在を信じ、畏れ、時には喚び出して利用しようとしていました。中にはそのような存在などを全く信じない人間もおりましたが、それでも全体としては、そういった存在を信じる世の中であったのです。しかし、ここ数百年の間に、そういった人々の精神性は急速に廃れていきました。その結果、我々にとって存在しにくい世界となってしまったのです。……そう。何かしらの縁(よすが)が無くては。今、我々が存在するには、契約者の存在があった方が、何かと好都合なのです。まぁ、いなくても活動自体は出来るのですが。」
「ふーん……。」
私にとっては、分かったような分からなかったような、そんな説明だったけれど、とにかく、『契約』が完了するまで、セバスチャンは私の味方でいてくれるということが分かった。それだけで、私としては充分だと思った。……充分すぎるぐらいだ。
その日も、穏やかに過ぎていった。おかゆを一人前食べさせてもらったのに、半日も経てば、空腹を覚えた。それも、吐き気も無しに。久し振りに、健康的な身体感覚を感じて、私は嬉しかった。この調子でいけば、数週間と経たないうちに、体力も取り戻せそうだ。
―――――――そうなったら、彼奴らを一人ずつ、地獄の底に沈めてやる。
カラスの姿でいる筈のセバスチャンが、黒く笑った気がした。