第1章 契約 ~前編~
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「翔くん……。私、ツライよ……。今日も、トイレに行っただけで、またイヤミ言われたりしてさ……。社会人なんて、みんなこんな感じなのかなぁ……?耐えるしかないのかなぁ……?」
「キリエ、また何か言われたの?よしよし、コッチおいで。」
私の頭を優しく撫でてくれているのは、最近できた恋人、茨木翔(いばらぎ・しょう)くん。同じ職場に勤務している、私よりも2つ上の先輩。背はそんなに高い方ではないけれど、優しい顔立ちに、声。こころが疲れた時には、こうして翔くんに会ってもらって、私の気持ちをきいてもらう。それだけで、こころが軽くなるから不思議。翔くんと付き合う前は、実家にも電話したりしてたけど、あんまり心配掛けさせたくない。
「キリエは頑張り屋さんで、いい子だね。でも、あんまり無理し過ぎちゃダメだよ……?」
そう言って、翔くんは、もう一度私の頭を撫でた。優しい声と体温に、私は安心するんだ。
「ここじゃあ何だし、移動、する……?」
今日は金曜日。明日は、お互い休み。私は、翔くんに誘われるようにして、喫茶店を出て、ホテルへと移動した。