第2章 契約 ~後編~
「戻りました。」
出掛けてから10分と経たないうちに、カラスは戻ってきた。
私の枕のすぐ横に、どさりとレジ袋が置かれた。
そもそも、この部屋には鍵が掛かっているし、窓も閉まっていたはずなのに、どうやって出入りしたのだろうか……。疑問は、尽きることが無い。
寝た姿勢のまま、レジ袋の中に手を入れて、中身をひとつ、取り出してみた。滋養強壮に効果があるとされる、有名メーカーの栄養ドリンクだった。私は今まで一度も飲んだことが無い商品だったけれど、1本1万円近くもする、非常に高価なものだということぐらいは、知っていた。
「あ、これって……。」
「お喋りは後回しです。とにかく、早く飲んでください。先程も申し上げましたが、貴女は衰弱の程度が酷い。飲み終えて数時間後には、栄養ゼリーですよ。」
「は、はい……。」
何とか上体を起こして、栄養ドリンクを飲み干した。気が紛れているからか、吐き気もなく一気に飲み干すことができた。これなら、ゼリーもいけそうだ。
「ごちそうさまでした。えっと……、少し、お話しても……?」
本当は、今もまだ頭がクラクラするが、この『悪魔』とは、少しでも話をしておくべきのような気がした。
「……本当は、もう少し回復してからの方が望ましいですが。まぁ、思ったよりは良い飲みっぷりでしたので、いいですよ。ただし、疲れたらすぐに休んでくださいね。」
カラスは、私の座っている近く、掛布団の上にそっととまった。見れば見るほどに、普通のカラスだ。本当に、これが『悪魔』なのだろうかと、疑いたくなる。