第2章 契約 ~後編~
「はじめまして。私は貴女と契約した……、まぁ、人間が言うところの『悪魔』に相当する存在ですね。契約に従い、これから私は貴女の手足となります。何なりとご命令を。」
カラスが、私の掛布団の上から私を見降ろしているという、何ともシュールな光景だ。だが、カラスが喋っているという、目の前に広がっている現実が、この非現実的な光景こそ現実であると認識させてくれる。何とも不思議な気分のまま、私は頷いた。
「さて、自己紹介はこの辺りにして……。まず、貴女は食事を摂らなければなりません。それほどまでに、貴女の栄養状態は酷い。今は辛うじて気力で持ち堪えていますが、それにも限界があります。ざっと見たところ、消化器官も弱っているようですので、消化の良い栄養剤を中心に、何か購入してきます。いいですね?」
「あ、はい……。」
あまりにも流暢な喋りに、間の抜けた返事を返すことしかできなかった。
「それでは、すぐに戻りますので、貴女はそのままで。」
そう言うやいなや、『悪魔』と名乗ったカラスは、私の前から姿を消した。
しかし、すぐに、疑問が次々と浮かんできた。私の財布も持たずに姿を消したが、お金はどうするのだろうか。『悪魔』が、この世界の通貨を持っているとも思えない。それに、カラスがその辺りの店に行ったところで、買い物ができるとは考えにくい。店員も驚くだろうし、そもそも目立ち過ぎて買い物どころではないだろう。もっと言うなら、買ったものをどうやって運ぶ気なのだろう。
疑問はとどまることがないが、私にはどうすることもできない。