第2章 契約 ~後編~
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「―――――――ぁ。あ、ぁ……。」
目が覚めると、何から何まで元通りの、私の部屋だった。私はまだ、生きているらしい。死に損なったと表現するべきなのだろうか。
上体を起こすことはせずに、目線だけで周囲を確認する。どうやら、何も変わったところは無いらしい。私が今いるのはいつも使っている寝具の中だ。やっぱり、私はまだ生きている。
「随分と遅いお目覚めですね。」
―――――昨日の声!
私は一気に上体を起こそうとした―――――けれど、情けないことに、上手く力が入らなくて、結局中途半端に体が動いただけで、再び寝具の中へ力なく仰向けになった。
「それに、酷い有様ですね。」
その美声には、明らかな侮蔑の色が乗っていた。言われている内容がご尤も過ぎて、早くも何も言い返せない。
「狭い住宅なのに、清掃も全く行き届いていない。それに何ですか。貴女の身なり。肉体の栄養状態も酷い。この時代、この国であれば、もう少しマシな水準であって然るべきなのですか?」
昨日の声は、淡々とこの悲惨な状況を指摘していく。いや、ここ半年以上、ニート兼引きこもり生活者なのだから、と思いかけて、思考が止まった。待って。この声は一体、どこから聞こえてくる?普通に、この部屋から聞こえてくるのだけれど……。
「こちらですよ。」
私の掛布団の上に、一羽のカラスが舞い降りた。突如として目の前に現れたカラスに、私はぎょっとしてしまった。カラスが喋っている、ようだ……。