第11章 羽化
「勿論、肉体は脆弱な“人間”のソレですが、その魂は最早、変質してしまっています。」
「それじゃあ、悪魔、とか……?」
私がそう言った瞬間、セバスチャンの紅茶色の瞳は紅色に染まり、その表情は明らかに不快を示した。
「……笑止。アナタの魂は腐り果て、ただ畜生に堕ちただけですよ。肉体も、もうじき手遅れです。」
そう言って、セバスチャンは汚物を見るような目で、私を見た。
「なに、ど、どういう、こと……?」
「本質である“魂”が腐ったのです。であれば、“肉体”も同じ運命を辿るのが道理でしょう。」
分からない。セバスチャンの言っている意味が、理解できない。
腐ってる? 私の魂が腐り果てて、畜生? 人間じゃない? ……どういう、こと……? 私の理解できる範囲を、完全に超えている。
「そんな……! ぅ、え……!?」
「ふっ。」
セバスチャンは、吐き捨てるように、短く笑い声を漏らした。それはまるで、鼻で笑うみたいな、そんな笑い方だった。
「理解が追い付かないのではありません。理解したくないから、その事実を拒否しているだけですよ。現に、もうその肉体は重く、五感も鈍っているでしょう? 此処はあくまでも“人間”に最適化された世界。ただの“畜生”が適応できるはずもありません。」
「でも、わたし……!? どうすれば……! ……ああああああああああ!!!!!!」
叫びながら、私はその場にうずくまった。
「もう、アナタの魂は、我々“悪魔”が食べること等できません。腐った食材を食べる“人間”など、皆無でしょう?」
セバスチャンは、頭を抱えて地面に膝をつく私を見下しながら、そう口にした。
「ぁ……。」
「アナタも、これからは、“人間”の食事など摂っても、意味がありませんよ?」
セバスチャンの顔に、酷薄な笑みが広がる。
「ぇ……?」
「これから、アナタは、ヒトの肉を喰らってしか、その肉体を維持できないのですから。」
「……!」
涙が出そうだった。でも、いい。構わない。それならば、自分で命を絶つまでの話。
私は、鞄からナイフを取り出し、一思いに自分の心臓を貫いた。今まで、“人間”を殺したときと同じ感触がした。これならば、死ねそうだ。