第11章 羽化
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帰路。
誰もいない、路地にて、セバスチャンに話かけた。
「お疲れさま、セバスチャン。」
全てが終わり、私ももう、色々と限界だ。
「これで、セバスチャンの仕事は終わり。人間の魂――――私の魂を貰うっていう、契約だったよね。うん。約束は守るよ。私を、殺すんでしょう?」
路地には、夕陽が差し込んでいる。
「……。」
セバスチャンは、無言で私に近付いてくる。なるべくなら痛くはしないでほしいけれど。
私は、セバスチャンが近づいてくるのを、無言で見守る。どんな殺され方をされても、文句は言えない。そりゃあ、死ぬにあたって、惜しい気持ちが全く無いと言えば嘘になるけれど。
「ふふ……、ははははははは……!」
突如、セバスチャンは笑い始めた。
今までに、こんなことは無かった。どうしたのだろうか。それに今まで、何を言っても、何をしても、気品すら漂わせていたセバスチャンだったが、今はどうだろう。セバスチャンの姿から、そんなものは一切感じられなかった。セバスチャンは、まるで滑稽なものを嘲笑うようにして、腹を抱えてわらっている。
「な、なに……?」
「いえいえ。失礼しました。あまりに滑稽でしたので、つい。」
滑稽……? 私が……?
「え、な、なに……?」
「まだ、自分を“人間”と思っているのですか?」
“人間”と思っている……?
「それって、どう、いう……?」
「やはり、人間は……。いえ、かつて人間だった生き物ですら、愚かですね。」
「……!?」
「姿形が“人間”というだけで、自らをソレと錯覚してしまう。もう、アナタは人間ではありませんよ。」
「……。」
思考が、追い付かない。
私が、“人間”じゃない、って……? どういう、こと……?