第11章 羽化
「それでは、最後は何をなさるおつもりですか?」
セバスチャンは、静かにそう尋ねてきた。
「うん。全部。」
「全部?」
「うん。全部燃やしてやろうかなって。」
「復讐相手を、ですか?」
「うん。まずは、私が勤めていた職場の建物。全ての窓ガラスと出入り口を封鎖して、火を放つ。阿鼻叫喚の中で、人間が死んでいく感じで。あとは、まぁ、そいつらの家ぐらいは、燃やしておこうかな、ぐらい。私をメチャクチャにした代金としては、安上がりな条件でしょう? 私って、意外と良心的かな……。」
喋り終えた私の口からは、ため息が漏れた。今朝から、倦怠感がすごい。
「それでは、すぐさま準備にかかりましょう。幸い、まだ午前中です。この時間を狙えば、ほとんどの職場の人間を巻き込めるでしょうから。各々の家を燃やすのは、その後でも遅くないでしょう。準備は、数十分もすれば、終わるでしょう。お嬢様、外出の御支度を。」
セバスチャンはそう言って、タクシーを呼ぶ手配をし始めた。
私は、重い体を引きずって、着替えをして、手荷物を小さめのバッグにまとめた。