第11章 羽化
頭が痛い。
体が重い。
まるで、体全部が鉛にでもなったみたいな、そんな重さ。なんとなくふらつきながらも、ベッドから下り、リビングへ向かう。
「おはようございます。」
それでも、セバスチャンはいつも通り、朝食を用意してくれている。
「おはよう、セバスチャン。ありがとう。」
お礼を言って、席に座る。
「……。」
テーブルの上には、綺麗にカットされたトースト、付け合わせのジャム、チーズにエッグなど、色鮮やかな食材が並んでいる。
「……いただきます。」
一口、口に運ぶ。
……。なんというか……。味が、あんまりしないというか……。
「どうなさいましたか? キリエお嬢様。」
セバスチャンが、心配した様子で、尋ねてきてくれた。
「ううん。なんでもない。いつもありがとう。……ちょっと、疲れてるのかも。味覚がまだ寝惚けてるのかな。」
言いながらも、結局私は一人前を完食した。
「セバスチャン。今まで、ありがとう。……今日で、全部オシマイにしよう。」
私は、セバスチャンに淹れてもらった紅茶に口を付けながら、そう宣言した。
セバスチャンは、一瞬だけ、その紅茶色の目を見開いて私を見た。
「御意。」
けれど、それもほんの一瞬の話で、すぐにいつもみたいに返事をした。
「紅茶、味はいかがですか?」
「うん、おいしい。ありがとう。」
嘘。本当のところ、今日は味がイマイチ分からない。でも、セバスチャンに淹れてもらった紅茶だから、きっと美味しい。