第13章 ・牛島兄妹、双子と邂逅 その1
「見覚えがある。」
ここで文緒を抱え直しながら若利が呟く。
「兄様がそうおっしゃるということはバレーボール関係の方々ですか。」
「ああ。先日の月刊バリボーで見た。確か」
若利が言いかけたところで異変が起きた。
女性達に愛想を振りまいていた双子の片方がこちらを真っ直ぐに見てくる。
文緒は咄嗟に視線を外したが若利は特に動じることがない。程なくもう片方もこちらを見て、相方と目配せしている。
何だか嫌な予感がするなと文緒が思っているうちに双子は揃って驚く女性達をかき分けてこちらに向かってきた。
「兄様、降ろしてくださいな。」
「どうした。」
慌てる義妹に対し義兄はキョトンとしている。
「向こうの方々がこちらに来ます。」
「またお前が人目を引いたか。」
「それはおそらく違うかと。」
実際の所は持ち上げてしまった為に人目を引いたのもあるだろう。しかしそれより向こうの目的は義兄に違いないと文緒は思う。
義兄が月バリで見覚えがあるという程の相手だ、向こうだって天下の牛島若利を認識してない訳はあるまい。
そうして若利がそっと文緒を降ろした所で双子がやってきた。
「あーっ、やっぱりっ。」
発せられる言葉の抑揚は若利、文緒の地元では聞き慣れないものだった。
「牛島君やっ。」
「おお、ほんまもんや。」
何やら高揚している2人であるが一方義兄の若利もまた、やはりかと低く呟いた。
「稲荷崎高校の宮兄弟。」
双子は片方がにぃと笑いもう片方は特に表情を変えないもののじぃっと若利を見つめる。
周囲の連中など完全に眼中になくなった様子のそこに一瞬だが張り詰めた空気が満ちた。
自分も眼中に入っていないと思われる状況に文緒は正直彼らが話し終わるか何かするまで離れた所へ避難したかったが生憎義兄はこんな時でも文緒の手はしっかりと握っている。
しばしの間若利と宮兄弟は睨み合ったような状態だったがやがて宮兄弟の金髪に染めた方が口を開いた。
「ここで立ち話も何やからちょっと他行かへん。」
若利はその提案に重々しく頷いた。
「いいだろう。文緒、行くぞ。」
「はい兄様。」