第13章 ・牛島兄妹、双子と邂逅 その1
その時牛島若利と文緒の義兄妹は東京へ来ていた。母が友人と会うというので一緒に連れてこられた形だが結局途中2人で色々見て回るといいと言われて兄妹2人は別行動になったのだ。
「話には聞いていましたが本当に人が多いこと。」
「俺の側から離れるな。土地勘がないところへこの人混みは危険だ。」
「はい兄様。」
いつもなら過保護が過ぎると義兄に抗う文緒であるが今回ばかりは素直に従う。
若利は若利で例によって義妹の小さな手をしっかり握って何があろうと離すつもりがない。
文緒としてはここで義兄と離れてはどうしようもなくなるし若利としてはここで人目を引く―少なくとも若利は今でもそう思っている―娘を1人にするわけにはいかない。
とはいえ逆に行き交う人々を華麗にすり抜けてノシノシ歩く背が高くごつい青年、若干引きずられ気味にポテポテついていく年齢がよくわからない華奢な少女の図はとても目立っていた。
逆にこちらが勘違いした誰かに通報されないことを祈りたいものである。
「若い方が多い場所ですね。」
「ああ。」
「あら、あちらに人が集まっています。」
「何かパフォーマンスをやっているのかもしれない。少し見ていくか。」
「はい。」
2人はノシノシポテポテと道端の少し人が固まっている所へと近づく。わらわらと集まっている若い衆は女性ばかり、そして文緒からは様子がよく見えない。
「全然見えない。」
思わずひとりごちたのは良くなかった。
「そうか。」
義兄が呟き文緒はあ、でもと言いかけたが時既に遅し。
両足が浮いていて周囲の連中が一瞬兄妹を見つめていた。
「見えるか。」
「はい。」
若利に持ち上げられた文緒は顔を赤くしうつむき加減で答える。持ち上げられてやっと見えた向こうには随分見目の良い青年2人、それも瓜二つの顔つきである。インク浸透印を押したかのようによく似た2人はニコニコと集まっている女性陣に愛想を振りまいていた。
「綺麗な方々ですね、まるでアイドルです。」
地元であの及川徹を景色と同等に扱った―しかも悪気はない―文緒なので勿論向こうに見える双子の青年についても美しい景色を見たのと同じような感覚で言っている。
義兄に持ち上げられている図とも相まってキャーキャーと盛り上がる女性達とは随分差がある反応だった。