第12章 ・保健室での話
「音楽の時間に立って歌っていたら久しぶりに目眩がしました。」
「そうか。大事はないか。」
「先生がおっしゃるには軽い貧血だろうと。」
「そうか。」
「前の学校でも時折ありました。」
「そうか。今は。」
「落ち着いています。次の授業には出られそうです。」
「そうか。」
傍から見れば相変わらず味気のないやりとりであるがこの間若利は義妹の手をそっと掴んでおり、後ろで黙って見守っていた瀬見と五色からすれば赤面ものである。
しかし若利は例によって感知していない。
「学業は重要だがまず体が第一だ。」
「はい兄様。」
「無理はするな。少しでも異変を感じたらすぐ先生に伝えろ。」
「はい。」
「場合によっては早退でもいい。部活は。」
「普通にあります。」
「そうか。だが今日は休んだ方がいい。」
「そうでしょうか。」
「体を休めろ。家の手伝いについては俺から母さんに連絡しておく。」
「はい、ありがとうございます。」
「兄が妹に配慮するのは当然だ。」
若利は言って起こされていた文緒の上体をそっと寝かせてやった。文緒が義妹になってから触れる事には慣れてきたはずなのにそっと掴んだ肩の骨の小ささにはほんの少しピクリと反応してしまう。
「念の為聞くが」
若利は思わず尋ねていた。
「少し痩せたか。」
勿論若利なのでお世辞でも気を回しているでもなくそのままの意味だ。
「いいえ兄様。逆に若干増えてます。」
「そうか。」
若利は内心安堵した。
「いつもより細く感じた。」
「あら兄様、お上手ですね。」
クスクス笑う義妹に若利は若干気を悪くする。
「どう見えているか知らないが俺はいつも案じている。」
「存じております。嬉しいです。」
「わかっているならいい。」
ここで若利はふぅと息をつき、ふと気がついた。
「すまん、」
瀬見と五色がじーっとこちらを見ている。
「ついてきてもらったというのに失念していた。」
「や、ま、お前だから驚かねぇけどよ。」
瀬見は後頭部をガリガリやりながら困ったように視線をそらす。