第8章 ・不思議な8月13日
「また事を構えたのか。」
「いいえ、逆に主将の方が買い物に付き合ってくださいました。どういう訳かはわかりませんが。」
瞬間的に大変気に食わないものを感じて若利は片腕で義妹を掬(すく)い上げた。
「兄様。」
一緒に寝床に飛び込む事になった義妹が控えめに抗議をするが若利はいつもどおり聞く気がない。
「行き帰りも何もなかったか。」
「ええ、何も。」
「ならいい。」
「兄様。」
「祝ってくれた事には礼を言う。」
腕の中でころんとしている義妹に若利は言った。
「ただ俺としてはお前がずっと息災でいる事が一番いい。」
「ずっとお側にいるつもりです。」
「そうだったな。」
「ところで兄様、着替えなくてよいのですか。」
「うっかりしていた。」
「一度部屋に戻りますね。」
「必要があるのか。」
「兄様、こんななりでも私は15です。」
「そうだった。」
若利は先に起き上がり、後からベッドから降りようとしていた義妹をまた抱き上げる。
「兄様、自分で戻れます。」
「いや少しここで待っていろ。」
廊下に出して座らせると文緒はまあ何てことと少々不満そうに言う。
「人を飼い猫みたいに。」
「猫とは話が出来ないし祝ってはもらえない。」
そのまま若利は部屋の戸を閉めて着替えにかかった。
着替え終わってから戸を開けると不満そうにしつつも義妹はちょこんと座ってちゃんと待っていた。猫ならこうは行くまいと若利は満足しまた義妹を抱き上げて部屋に入れる。
「にゃー。」
突然の義妹の奇行に若利はごく僅かに固まった。
「どうした。」
すると義妹はすまして言う。
「どうにも猫扱いされている気がしたのでなりきってみました。」
「今までで一番不思議な誕生日だ。」
寝床に入れるとそれこそ猫のように丸まる義妹を見て若利は呟いたのだった。
次章に続く