第2章 ・佐久早の不機嫌、義妹の受難
「ハ。」
東京は井闥山学院高校にて2年の佐久早聖臣は大変不機嫌な顔をした。元々神経質で潔癖気味、常日頃から機嫌がいいように見えない彼だが今ははっきりと眉間に皺を寄せている。
「若利君が、シスコン。」
怒り口調の疑問形に対し同じバレーボール部のリベロ古森元也は特に気圧される事なくらしいぞと答える。
「何か噂になってる。」
「若利君に姉ちゃんとかいたっけ。」
「妹なんだと。」
「ハ。」
佐久早はますます眉間の皺を深くする。牛島若利、東北のウシワカと呼ばれ日本ユース代表でよく知っているあの選手の禁欲的な雰囲気からはまったくもって想像がつかない。というより
「有り得ないだろ、それどこソース。」
マスク越しでくぐもって聞こえる声で呟くと古森はそれがだなと言った。
「梟谷の木兎。」
「信憑性がまるでない。」
バッサリ斬り捨てて佐久早はとっととあるき出そうとする。だがしかし古森の話はまだ続きがあった。
「それがそうでもなくてよ、木兎の知ってる奴がそのウシワカ妹と知り合いでたまに話が入ってくるんだと。宮城の学校の奴つってた。」
佐久早は歩みをピタと止めた。古森からは見えないがもし反対方向から来ている奴がいたら佐久早の顔色がどす黒く見えたかもしれない。一瞬どす黒いオーラを背中から発してから佐久早は言った。
「どんな奴。」
今度は古森がハと聞き返す番だった。
「その妹。」
「俺は顔知らねーけど木兎の言うには見た目がロリだって。」
「ふぅん。」
佐久早は言ってまた歩きだす。
「まー実際のとこバレーにゃ関係ないけど。まさかあの東北のウシワカにそんな話が湧いてくるってのがおもしれーな。」
古森がハハハと笑う中佐久早はやはり不機嫌に見える顔でボショリと呟いた。
「どんな奴か気になる。」
「へ。」
まさかの発言に古森はこめかみに汗を浮かべて固まった。