第5章 ・片仮名語
そうしてしょうもない勝負最終日である。
「今日こそへこましたげるからね、文緒ちゃん。」
「どうぞご随意に。負けるつもりはありませんので。」
「言うねぇ、流石若利君の嫁ー。」
「嫁ではありません。」
「ほぼ変わんない癖に。」
朝っぱらから1-4の教室前でこいつらは何の火花を散らしているのか。何となく落ち着かないのか五色がでかい図体でそぉっと2人を見守っている。
「ま、何でもいいや。俺が勝ったらお願い聞いてもらうからねん。」
「嫌な予感しかしないとはよく言ったものですね。私が勝った場合は幼女とか幼妻(おさなづま)などと呼ぶのをやめて頂きます。」
「隙のなさは流石だね。」
「あら、鐘がなってる。では天童さん、また後程。」
「まったねーん。」
とりあえず天童は一旦自分の教室へと引き上げていった。同じく教室に戻った文緒にやり取りを見ていた五色が言う。
「お前ホントよくやるよな。」
「兄様にも言ったんだけど何となくこれで天童さんに負けるのは癪に障る。」
「牛島さんはそれに何つったんだよ。」
「そうか頑張れって。」
「天然かっ。」
「五色君に言われるなんて何て事。」
「俺は天然じゃねぇっ。」
「今誰か笑ったよ。」
それはともかくとして勝負最終日なので天童はすきあらばとばかりに休み時間になるとウロウロして文緒に話しかけてきた。自らやらかしまくったのが相当堪えたのか天童はこの日ばかりは無駄に頑張っている。しかし文緒だって退く気が全くない。おかげで最終日は以下の通りだった。
「文緒ちゃん、これあげるー。」
「あら噛み菓子ですか、ありがとうございます。食べる機会がほとんどなくて。」
「そう来るか。」
「だって噛む物でしょう。」
「そうね。」
「あ、文緒ちゃん送ったの見てくれたー。」
「見ました。」
「なかなかいい感じに文になってたっしょ。」
「面白かったですがその、小さい図版をあんなにたくさん送ってこられると端末の通知欄が大変な事に。」
「強いねえ、この幼女。」
「幼女ではありません。」
「じゃ合法幼女。」
「兄様が何か違う趣味の人に思われそうなのでご勘弁くださいな。」
「どーせ超溺愛が全国区で知られてんだから遅いんじゃないの。」
「何て事。」