第1章 体温で溶ける恋の味
‐赤葦side‐
毎年、毎年。
バレンタインの前日に、みやびが何かを作っていたのは知っている。
綺麗にラッピングされた、それの行き先が自分である事を願っていた。
それが、叶った事は一度もない。
義理でさえ、俺にはくれない。
今年も、また。
俺以外の誰かの為に作られたチョコ。
見れば見ただけ、自分が不機嫌になるのは分かっているのに気になって。
昨日は、初めて宛先について聞いた気がする。
渡せない、と聞いて。
代わりでも良いから、みやびからの物が欲しいと思ってしまった。
だから…。
‘俺が貰ってあげようか。’
なんて、昨日は言おうとした。
こっちから、逆チョコなんか慣れない真似をしたのも、プレゼント交換みたいなノリで渡してくれると思ったんだ。
それが、神妙な顔をされてしまったから、どんな顔をして受け取れば良いか分からなくて、口からは本音が零れていた。
「…京治宛だよ。最初っから、京治の為に作ってたの。」
強く言い過ぎた、と後悔しかけた頭に直接響くような震える声。
ゆっくりと、目の前まで差し出されたラッピングされた箱。
「受け取って貰える?」
そんな事を聞かれなくても、俺宛であるなら喜ばしい限りの事だ。
頷きを返答にして、それを受け取った。