第1章 体温で溶ける恋の味
開かれた箱の中身は、私の物と同じくトリュフだ。
京治の指先に摘まれたそれが近付いて、唇に押し付けられる。
仕方なく口の中に入れたチョコレート。
食べて貰えない、自分のチョコと重なって。
溶けていく、その味が甘い筈なのに苦く感じた。
これを京治に渡した女の子も、他の女に食べられるとは思ってなかっただろうな。
「京治って無神経だよね。」
「…何が?」
「普通、バレンタインのチョコ、他の女に食べさせないでしょ。人の気持ち少しは考えたら?」
つい、気持ちが言葉として出て、京治の事を睨む。
京治の方は、そんなの気にしていないようで、無言でメッセージカードを指差した。
そこに、書かれていたのは私の名前。
それも、見慣れた、京治の字で。
「逆チョコだよ。どうせ、今年も貰えないと思ってたから。」
箱の蓋が閉じられ、テーブルの上を滑って私の前に。
受け取るより前に、気になった事があって手を出せない。
だって、今。
私に対して、今年も貰えない、って言った。
毎年、私のチョコを待っててくれてたの。
鞄から、チョコレートの箱を再び取り出す。
「…それ。」
昨日も見たであろう、ラッピングされた箱。
いつもの、嫌そうな顔をされて、渡そうか迷う。
「みやびも、無神経だね。
渡せなかったからって、他の男宛のチョコを渡そうなんて。人の気持ち少しは考えて。」
さっきの、私の言葉に準えて返してくる声は冷たかった。