第1章 体温で溶ける恋の味
その日の夜も当たり前に京治は家に来て、食事をしている最中。
「京治くんは相変わらずモテるわねー。羨ましいわ。」
「好きな人に、好かれなければ意味がないですよ。」
「あら、京治くんってば好きなコいるの?どんなコ?」
「ゴチソウサマ!」
母の話に付き合う京治。
好きな人の、そんな話は聞いていたくなくて、食事は殆ど残した。
引き止めようとする母の言葉なんか気にせず部屋に戻る。
鞄から出した箱。
好きな人がいるなら、もし渡せていても食べては貰えなかった。
悔しくて、その箱を見ているだけでも涙が出そうだ。
でも、泣けない。
いつも通りなら、京治が勉強をしに部屋に来るから。
必死に耐えていると、扉が開く音が聞こえて振り返る。
予想の通り、京治が部屋に入ってきた。
ここから先も、いつも通り。
テーブル脇の定位置に腰を下ろして勉強道具を広げていた。
冷静を装って、鞄の中に箱を戻すと私もノートを取り出す。
その時、お腹の音が鳴った。
聞かれてない事を願ったけど、この静かな空間じゃ無理な話で。
京治は笑いを耐えているのか、肩を震わせていた。
「…食べる?」
震えた手で、差し出されたのはチョコレートの有名ブランドの箱。
リボンの間にメッセージカードらしき物が付いていたけど、興味がないようで目も通さずに箱の包みを開けていた。