第1章 体温で溶ける恋の味
食事の後は、私の部屋で勉強するのがお決まり。
子どもの頃から変わらない習慣。
京治が家に帰るのは、両親どちらかの連絡が入ってからだ。
高校生相手に過保護な感じはするけど、昔からこうだから違和感はない。
狭いテーブル、向かい合わせに座って復習をしている中で、京治のシャーペンの動きが止まった。
「…みやび。」
「何?」
さっきと同じ、会話の始まり。
だけど、今は京治の顔を正面から見ている訳で。
直視し続ける事は出来なくて、下を向いた。
「さっきの、渡す相手いるの?」
京治だよ、なんて答えられなくて。
でも、嘘は吐けなくて。
「いる、けど。多分渡せない。」
やっと出たのは、勇気がない自分を肯定しただけ。
「そう。…それなら、俺が…。」
京治が何かを言い掛けた時、スマホが着信を知らせて音を立てた。
会話は中断となって、帰り支度をする京治を目で追う。
俺が、の続きは?
手伝ってやる、とかかな。
手伝いは必要ない。
渡したい本人なんだから嫌な顔さえ、しないでくれればいいのに。
向こうも続きの言葉は言わず。
私も本心は口に出さず。
帰っていく姿を見送った。