第1章 体温で溶ける恋の味
今年はビターチョコのトリュフ。
どうせ渡せないのに、いつも違うものをちゃんと作っている。
出来上がった物を箱に入れ、ラッピングをしているとインターフォンが鳴った。
母親が玄関まで出て。
「京治くん。お帰りなさい。」
「ただいま、オバさん。いつも、すみません。」
「いいのよ。1人分増えるくらい大した事ないんだから。」
会話と、こっちに向かってくる足音が聞こえる。
これは、本当にいつもの事。
京治の家は両親共に忙しい人で、平日は近所の我が家に晩御飯を食べに来る。
いくらデカくても、一応はまだ子どもである年齢の京治を1人にしない為だ。
入ってきた京治は私の手元にある箱を見て、予想通り眉を寄せた。
だからって何のコメントをする訳でもなく席に着く。
私の方も作業は終わったから、母親にキッチンを明け渡して京治の隣に座った。
「みやび。」
「何?」
「何でもないよ。」
この会話も、毎年のように行われている。
俺はいらないから、とか言われそうでしつこくも聞けない。
沈黙は、母と料理の登場で破られて、お食事タイム。
人の家の食事だというのに、この男は人一倍食べる。
マシンガントークを放つ母の言葉に相槌を打ちながらも、驚くべき量を平らげていた。